巧言乱徳

こうげんらんとく

入院飯8

am6:00、起床。

この病院は週の始めに手術が集中する。

眼科の手術の多くは白内障などの比較的入院日数が少ない患者が多い為、週の後半には大抵の患者が退院してしまうので週末は入院患者が少ないようだ。

私のベッドの有る4人部屋は、例の携帯電話と補聴器が退院してから新規の入院は無く、昨夜はアメーバ氏が一時的な外出許可を取って帰宅したので一人きりの静かな夜を過ごした。

朝食。

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朝食後の点眼時、手術した右目を鏡で観察する。

手術直後には白目部分が真っ赤に充血していてターミネーターの様になっていたが、大分赤い部分が減ってきた。

眼球内に充填されたガスも徐々に減ってきて、顔を上げて水平方向に視線を向けると、視界上部にガスが溜まっているのが線になって見える。

実際には眼球内部で視界が反転するので、線から下の部分が全部ガスなのだ。

ガスは通常の体液と屈折率が異なるので、明るさは感じられるが曇りガラスを通している様に、視界がハッキリしない。

昼食。

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午後になってから、週明けに手術を受ける為に空いていたベッドに2名の新しい患者がやって来た。

両名共に比較的症状は軽いらしく、テレビを見ている。

窓際のベッドの患者はとても静かなのだが、アメーバ氏の隣の入り口近くの患者が問題行動を取り始める!

最初は私に話しかけているのかと思ったが、周囲がビックリするような大声で独り言を繰り返すのだ。

じれは、認知症じゃなかろうか・・・トラブルは避けたいので注意もできない。

何でこの部屋はこんな患者ばかり入って来るんだ?

まあ、明後日退院なのでそれまでの辛抱だ。

夕食。

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一時帰宅していたアメーバー氏も戻り、満室となった4人部屋。

隣のベッドの不気味な独り言を聞きながら夜が更ける。

入院飯7

am6:00起床。

相変わらずうつ伏せ姿勢に苦戦していて安眠出来ない。

病院からはV字マクラと言うのが追加支給された。

円柱状のクッション2個を平行に並べて端部をくっ付けた形状で、通常はくっ付いた部分を顎の下に当てて、円柱部は左右の脇の下に抱く様にして寝転ぶ事で胸の圧迫を減少させるのだが、使い方が悪いのか体型に合っていないのか、全く楽にならない。

一番辛いのは首だが、額と、顎から口にかけての長時間のクッションとの接触が、地味に痛い。

私の場合、剥離したのは網膜の右下だが、中央上側もレーザーを当てられている為に、患部全体に均等にガスを当てる為に医師からは地球の中心を覗き込む様に真下を向く様に指示されている。

今迄の人生、地球の中心を覗き込むなんて経験は無い。

指示を守る為にはかなり顎を引いて横になる必要が有るので、クッションに接する額や顎、口周りに体重が集中するのだ。

人間の頭から喉にかけての中心部には重大なツボが集中している。

例えば、ジャンプコミックス北斗の拳の2巻で、ケンシロウがGOLANのカーネル(大佐)と戦うシーン。

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北斗神拳奥義に北斗壊骨拳(ほくとかいこつけん)というのがあるが、これは世紀末の核戦争を生き延びた強靭な肉体を持つ軍の特殊部隊員ですら、眉間を指で突かれるだけで全身の骨格が背中側から飛び出るという恐ろしい技だ。

長時間秘孔を圧迫続けるのが、いかに危険かお判り頂ける事と思う。

又、通常仰向けで寝ている場合は自然に喉の奥に飲み込まれる唾液が、重力で唇の裏に溜まる。

従って、定期的に唾液を飲み込まなければならないが、かなりの量が涎となって落下するのも不快で有る。

朝食。

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昼食。

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夕食。

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食事以外は1日4回の点眼とシャワー。

後はうつ伏せ姿勢を取り続けるだけの生活はまだ半分も過ぎていない。

入院飯6

am6:00起床。

朝食。

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入院の友。

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朝食後、看護師さんが体温と血圧測定に来た時に、頭を洗いたいならシャワーのお手伝いをしますが如何ですかと尋ねられた。

手術翌日から首下のシャワーが許されているのだが、頭が洗えないのでこれは嬉しい申し出である。

しかし、どの様に手伝ってくれるのであろうか?

狭いシャワールームに2名で入るのか?

若くて可愛らしいこの看護婦さんと一緒にシャワーを浴びるのか?

前はタオルで隠すとして、看護婦さんは水着になるのか?

一瞬、色々な妄想が頭をよぎったが、詳しく聞いて見るとシャワールームでは無く、洗髪室と言うのが有ると判明。

美容院の様な椅子に仰向けに仰け反って座り、頭を洗って貰うのだ。

当然、服は着たままだ。

昼食。

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昼食後、机に頭を付けて下を向いていると件の看護師さんがやって来て、洗髪室へ。

プロの美容師では無いが、丁寧に洗って貰い、さっぱりした。

有料でも良いから毎日洗って貰いたいものだが、スタッフの人手が足りないのであろう。

夕食。

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携帯電話と補聴器が退院してアメーバ氏と2名になった4名部屋は静けさを取り戻した。

まあ、静かになったからと言って安眠できる訳では無いのだが。

入院飯5

又も眠れない夜が明けた。

am6:00朝食。

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ここで改めて4人部屋の他の患者について記述してみる。

まずは以前に少々紹介した、私の隣のベッドで頻繁に電話をしているオジサン。

マナーモードにしていない折り畳み式ガラケーで、特に緊急性が無さそうな世間話しを延々と普通の声で話しているので個人情報がダダ漏れ

娘と孫がいるが現在は一人暮らし、バツイチで別れた奥さんは再婚しているようだ。

そんな情報はどうでも良いのだが、気になるのは女性看護師さんへの対応だ。

曜日や、夜勤などでシフトが代わるので総勢10名を超える看護師さんが忙しく働いているのだが、この患者は若い女性看護師が来る度に、キレイだね、可愛いね、とやたらに褒める。

ちなみにこの患者、マナーモードにすると携帯電話が何処に有るかも判らない位、視力が悪い。

まあ、それだけなら良いのだが、続けて必ず電話番号教えてと続けるのだ。

私が聞いただけでも4名に電話番号を聞き(当然教えないが)、1名には強引に自分の電話番号を書いたメモを渡していた。

普通にセクハラ行為だろう。

何となく、離婚していて現在一人暮らしの理由が判る。

翌日退院して行ったが、退院手続きに時間が掛かる事を何度も看護師さんにクレームを付けた挙句、『文句を付けないと何時までも待たされる』、と吐き捨てる様に呟いて退室。

まあ、クレームを付ける事でこの患者の手続きはちょっと早くなったかも知れないが、何度も問い合わせに行かされたスタッフの手間や、クレーマー対策で後回しにされたかも知れない他の患者の迷惑なんかは、全く考えた事も無いのだろう。

病院スタッフの為にも、この患者が再入院しない事を心より祈る。

昼食。

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次は私のベッドの窓際の並びの患者を紹介する。

この患者さんはかなり高齢で、目だけで無く歩行も困難。

更に耳が悪いらしく補聴器をしているのだが、これが問題だった。

ラジオを聞いているようだが、補聴器の調子が悪いらしく甲高い金属質なキーンと言うハウリングの様な音がしばしば発生する。

更に胃腸の具合が悪いのか、頻繁に大きな音と共に放屁を繰り返す。

ちなみ各ベッドは上下が開いたカーテン1枚で仕切られているだけなので、防音性は一切皆無。

歩行が困難な為、トイレが近い部屋が空いたので2日で移動して行ったが、携帯電話好きと一緒に居なくなったのでちょっとは気が楽になった。

夕食。

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さて、4人部屋の残る一人の患者は、私より長く入院しているらしく、スタッフは全員顔なじみ。

左目は問題無いようで、年齢も私と同年代らしく、眼科病棟の患者としては若いので歩くのもしっかりしているが眼の方は重症のようだ。

ひっきりなしに看護師に痛みを訴え、アメーバが暴れていると繰り返している。

アカントアメーバ角膜炎と言う奴か?

具合が悪いのは仕方がないが、体臭が気になるのか日に何度も男性用消臭スプレーを噴霧するのが気になる。

実は同様の体臭抑制スプレーを私も持ち込んでいたのだが、アメーバー氏の行動を見て自粛した。

病気のおっさんが臭いのは当たり前なのだ。

入院飯4

am6:00起床。

慣れ無いうつ伏せ姿勢で安眠出来ず、数時間ウトウトしては首や顎、腰の痛みで目覚めてストレッチ。

うつ伏せで寝ているだけが、こんなに辛いとは思わなかった。

朝食。

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朝の検診では手術は綺麗に仕上がっているとの事で、今後どれだけ頑張ってうつ伏せ姿勢を取り続けるかが、視力回復のポイントになる。

病院からは、野球のキャッチャーが胸に付ける様な首の部分がU字にえぐれた形状のクッションが支給されていて、これを胸に当てた姿勢でベッドにうつ伏せになるのだが、首や額、頬や喉、唇など寝具に触れる部分が時間経過と共に血行が阻害される為に痺れ始め、やがて痛み出す。

手術直後の右目は浮かして置く必要が有るので額にクッションを当てているのだが、頭の重みで徐々に沈む為に首の水平が保てず、常に首に引っ張りか圧縮の力が加わり痛みが増して来る。

横になっていても辛いので度々椅子に座って下向き姿勢を取るが、今度は違う所が痛くなって来る。

人間の身体は、長時間同じ姿勢を取り続ける事は出来ないのだ。

望月三起也先生の代表作、ワイルド7の緑の墓と言う章にエビフライと名付けられた拷問が出て来る。

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丸太で作られた十字架を背負わされ、腰を伸ばせない様に90度曲げた姿勢で足と首に鎖を繋がれる。

作中では、『人間が同じ姿勢に耐えられるのはせいぜい1時間さ』、『その苦痛は千本からの針で腰をさされているのとおなじだという』、と解説されている。

この拷問をされたニセワイルド7の一人は痛みに耐えきれず、10時間持たずに発狂する。

主人公の飛馬はエビフライに24時間以上耐え抜いた上で反撃、脱出するが、これは不屈の闘志を持つヒーローだからである。

人一倍根性の無い私が、こんな拷問の様なうつ伏せ姿勢に2週間も耐えられるだろうか?

昼食。

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それにしても1日が長い。

夕食。

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まだまだ眠れない夜が続く。

入院飯3

手術当日。

朝食。

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手術の開始予定時間は午後3時なので、今日は昼食は無し。

午後になって手術準備が始まり、生まれて始めて点滴の針を腕に刺される。

3時を過ぎたが手術が始まる気配が無い。

窓の外が暗くなり、他の入院患者に夕食が運ばれて来る。

予定より4時間遅れて車椅子に乗せられ、手術室に運ばれた。

手術台は歯科医の椅子のような構造で、横になって顎を仰け反らせる様に頭を固定される。

手術開始直前に問題発生。

昨年末から頸椎狭窄性神経痛と言う、Xジャパンのドラマーがアメリカで手術したのと同じ症状で右肩から腕にかけて痛みと痺れが出る事が有るのだが、手術台の不自然な姿勢で肩が痛い。

事情を話して肘の下にクッションを入れて貰ったが症状は改善されず、肩の痛みに耐えながらの手術となった。

手術自体は部分麻酔が効いているので痛みは殆ど無い。

しかし、意識はハッキリしている。

手術開始時、強制的に大きく開かれた眼球に鋭利な金属製の施術器具が差し込まれる瞬間、本能的な恐怖で身体が動きそうになるのを堪える。

手術中は肩の痛みに耐えながら、大きな地震が起こらない事を祈っていた。

眼球に施術器具を挿入して繊細な作業をしている最中に揺れたり、病院なので自家発電設備はあると思うが地震の影響で停電したらそのまま失明するだろう。

手術自体は1時間少々、手術室で車椅子に乗ったまま少し休み、病室に戻ったのは9時を回っていた。

消灯間近の夕食。

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入院飯2

am6:00、起床。

朝食後に診察が有る為、前もって瞳孔拡散薬を点眼される。

am7:00朝食。

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朝食後の診察で手術が明日午後になると告られる。

昨日の外来の混雑具合からある程度予測出来たが、手術も混みあっているらしい。

pm0:00昼食。

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朝食までご飯は150gだったのだが、これ以降200gに増量された。

本日は他にやる事は無く、ひたすら安静にしているしか無いのだが、明日から暫く洗髪出来なくなるのでシャワーを浴びる。

シャワーはフロアに一つしか無いので30分限定、予約制。

個室はテレビをイヤホンを使わずに見られるのだが、目を使う事が禁止されているのでベッドに静かに横になっているしかない。

ちなみに私の場合、右目左上に視界欠損部分が出来たが、数日前は気のせいかと思う位微かな物だったのがハッキリと、しかも大きくなってきた。

眼球内部で光が反転しているので、視界上部に欠損が有ると言う事は、実際は網膜の下側が破れ始めていると言う事。

医師から上側から剥離し始めた網膜は重力で下に引っ張られて一気に剥がれる事も有ると聞いたが、下側の欠損は一気に破れる事は少ないが術後のケアは大変と言われた。

施術時に眼球内部に充填するガスを患部に当てる為に、常にうつ伏せ姿勢でいる必要が有るのだ。

比重の軽いガスは眼球内上部に溜まるので、患部が上側だと極端に下を向く必要は無いが私の様に患部が下側の場合はかなり頑張ってうつ伏せ姿勢を保つ必要があるらしい。

ベッドが空いたので4人部屋に移動。

真ん中が通路になっていてベッドの2個は窓に面している。

私のベッドは窓際の一番奥。

pm6:00夕食。

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夕食後、10時の消灯までの時間がやけに長く感じられる。

それにしても、個室の時と比べて4人部屋は賑やかだ。

患者同士で話しはしないが、ナースコールや看護師の巡回、更にはベッドで携帯電話を使って延々と話している患者が。

この患者、両眼の視力が殆ど無いようなのである程度仕方がないと思ったのだが、その後とんでも無い迷惑患者だと言う事が判明する。